ダル・エス・サラーム都市論 ~モバイルインターネットと港湾から見るアフリカ都市~

各国コンテナ取扱量(TEU単位)

こんにちは、本記事では@Africa[アットアフリカ]が拠点にしているダル・エス・サラームという都市について、モバイルインターネットと港湾の観点から考察を行いたいと思います。タンザニアという国家ではなく、ダル・エス・サラームという都市の単位にしたのは後述の書籍においても紹介されている通り、今後は国家ではなく都市が経済の中心となっていくことが予想されるからです。日本においては東京が、中国においては上海や深センが、都市の単位で取り上げられることが多いように、今後は国家ではなく都市の単位で経済や行政が語られ、ビジネスの進出先のみならず移住先の選定も都市単位で捉えられるようになっていく可能性が高いです。そのような理由から、本記事では、タンザニアの最大都市であるダル・エス・サラームに焦点を当てて、主にモバイルネットワークと港湾の視点からこの都市に目を向けてみたいと思います。

モバイルネットワークから見るダル・エス・サラーム

2016年に発表されたITUのレポートによると今やインターネット人口は40億人に迫ります。ここタンザニアにおいては、光ファイバー等の固定回線の一般家庭での利用は稀で、PCをインターネットに接続する際にはスマートフォンのテザリング機能を利用してインターネットを利用することになります。モバイルネットワークを利用して、どの程度の速度が出るのか、それで仕事は可能なのか、YouTubeの視聴は可能なのか、どのようなウェブサービスならばストレスなしに利用できるのか等の疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。本項ではダル・エス・サラームにおけるインターネットの利用についてご紹介します。

世界各国におけるモバイルインターネット速度

各国におけるモバイルインターネット速度については以下のレポートをご覧下さい。
Global State of Mobile Networks – OpenSignal

日本21.79Mbps、アメリカ12.48Mbps、ドイツ13.79Mbps、ケニア6.75Mbps、南アフリカ9.93Mbps、ナイジェリア4.13Mbps、モロッコ7.36Mbps

※上記サイトから一部を抜粋

MbpsはMega bit per secondの略で、より馴染みのあるMB(メガバイト)単位に置き換えるには上記の数字を8で割る必要があります。

残念ながらタンザニアのデータはありませんでしたが、タンザニア経済は隣国ケニアに数年遅れる形で推移していますので、モバイルネットワークインフラもケニアよりも遅れていると考えるのが自然で、数値も6.75Mbpsを下回ると予想できます。ケニアにおけるインターネット事情に関しては本メディアの以下の記事もご覧下さい。
日本で報道されないアフリカニュース-ケニヤのインターネット接続スピードが世界で23位。アフリカではトップ!- | @Africa[アットアフリカ]

ダル・エス・サラーム中心地のインターネット事情について

ダル・エス・サラームにおけるモバイルインターネットの速度調査を実施致しましたので、ここではその調査結果を紹介致します。速度調査には以下のAndroidアプリを使用しました。
Speedtest.net – Google Play の Android アプリ

NetworkSpeedTest170720

日付 時刻 速度DOWN 速度UP 場所
19日 9:25 26.59 16.17 India St
18日 21:45 6.99 18.94 Kariakoo
13日 17:10 13.04 10.41 Taifa Rd
13日 10:45 23.91 18.98 Kariakoo
12日 19:10 16.15 10.07 Kinondoni
12日 18:35 4.84 4.35 Kariakoo

利用したモバイルネットワークはタンザニア最大手のVodacom, インターネットプランはプリペイド払いのWeeklyプランで容量は10GB, 調査に使用したスマートフォンはXiaomi Mi4です。

KariakooやTaifa Road等の場所を以下の地図に示しました。

青Kariakoo, 黄色Taifa Rd, 緑Kinondoni, 赤India Stで、いずれもダル・エス・サラームの中心地付近に位置しています。

上記の数字をご覧になってその速さに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。タンザニア全土のモバイルインターネットインフラはまだまだ未整備であっても、ダル・エス・サラームに限って言えば非常に快適なインターネット環境があるのです。

タンザニアのモバイルインターネット料金に関しては以下の表をご覧下さい。私が利用しているのは12,000Tshプランで、1JPY=20Tshくらいなので600円程度です。600円で容量は10GB、速度はYouTubeがほぼ問題なく閲覧できる程度のネット回線が得られます。タンザニアには、Vodacomの他にもAirtel, Tigo, Halotelなどの通信会社がありますが、価格に大きな差はないものの、地域差があるようで、それぞれ自分の活動範囲に適したネットワークを使います。
VodacomInternet
Internet Bundles | Vodacom Tanznaia

モバイルネットワークは現代人にとっての必需品で、住む場所や働く場所、旅行先等を決める際にも重要な要素ですが、ダル・エス・サラームのモバイルネットワーク環境は、間違いなくこの都市の魅力を向上させていると言えるでしょう。この国には日本以上にフリーランサーとして働いている方が多く、在学中からプログラマーとして仕事をしたり、卒業後は就職せずにフリーのデザイナーとして働いている方がいますが、彼らの仕事スタイルを支えている一つの要素がこのモバイルネットワークです。今後はリモートワークで先進国の企業から給料をもらいながら、生活コストの安い国に住む外国人も増えてくると思いますが、その際にインターネット環境と物価は最も重要な要素であり、この二点においてダル・エス・サラームは一定の競争力を持っていると言えそうです。

ダル・エス・サラームという都市について

人口が極端に少ない都市ならまだしも、人口400万人以上で、日本第二位の都市である横浜市以上の人口を持つダル・エス・サラームにおいて、このようなインターネット環境が整備されていることは驚きではないでしょうか。もちろん、これはダル・エス・サラーム全域に言えることではなく、あくまで中心地に限ります。ただし、都市の力が相対的に強くなってきている昨今においては国土全域を等しく発展させる必要がないのと同様に、都市もまた都市全域のインフラを整備する必要はなく、必要なところに必要なインフラを整備し、それを必要とする人がそこに集まっていくというシステムの方がより効果的に都市の運営ができ、特に強い予算制限のある途上国においてはその傾向が顕著になると思っています。とは言え、急速な都市化によって生じる問題もあり、以下の交通渋滞はその典型と言えます。

モバイルインターネットの予想外の快適さとは対象的にダル・エス・サラーム中心地の交通事情は非常に悪く、交通渋滞は社会問題になっています。信号が機能せず、交通警察によって整備されるために、効率的な車の移動が妨げられていたり、そもそも道路が狭く、車の数に道路の拡張が追いついていなかったり、ダル・エス・サラーム在住者にとってはいかに交通渋滞を避け、円滑に移動するかがQOLを上げるための最重要項目となっています。また交通渋滞は後で触れる港周辺の物流にも悪影響を与えており、タンザニア経済が今後発展するための大きな課題と言えるでしょう。

逆に交通渋滞によって恩恵を受けているものの一つにラジオ放送があります。交通渋滞に捕まっている人口が多ければ多いほどラジオの視聴者と、それに付随するラジオ広告の効果も高まるというわけです。ただし、今後この流れが変わるかもしれないと思わせるものに、本記事で紹介しているインターネット環境があります。運転中にスマートフォンを操作する人はさほど増えないでしょうが、スマートフォンを介したウェブラジオやオーディオブック、音楽プレイヤーのようなものが今後普及していく可能性は十分にあります。

港湾から見るダル・エス・サラーム

ダル・エス・サラームはタンザニアの首都ではないのですが(法律上の首都はドドマ)、タンザニア経済の中心地である港町です。ここではコンテナの取扱量を他の港や地域と比較しつつ、港湾という普段あまり意識しない観点からダル・エス・サラームという都市について考えていきたいと思います。

世界の港事情

世界の主要な港のデータについては以下のIAPHのデータをご覧下さい。
Statistics | IAPH

以下の表は上のIAPHのデータから数値を抜き出し、作成したものです。
※数値は2014年のもの

順位 コンテナ取扱量(1000TEU単位)
1 上海 中国 35,285
2 シンガポール シンガポール 33,869
3 深セン 中国 24,037
4 香港 香港 22,226
5 安寧 中国 18,700

※TEUはTwenty-foot Equivalent Unitの略で、20フィートコンテナに換算した場合に何個になるかという貨物の容量を表す単位です。

日本は29位に東京(4,895)がランクイン、横浜(2,888)、名古屋(2,549)、神戸(2,556)、大阪(2,282)と続きます。上海やシンガポールの取扱コンテナの量が文字通り桁違いに多いことが分かります。その他の港では中東地域の物流ハブとしての発展したドバイ(13,641)が目を引きます。

ではアフリカ大陸における港湾のコンテナ取扱量はどうなっているのか見ていきましょう。

順位 コンテナ取扱量(1000TEU単位)
1 ポートサイード エジプト 3,959
2 タンジェ モロッコ 3,080
3 ダーバン 南アフリカ 2,666
4 アレキサンドリア エジプト 1,678

アフリカ地域の港は上の表の通りなのですが、IAPHのデータにはエジプト、モロッコ、南アフリカしか含まれていませんでした。サブサハラ地域に限定するとアフリカ大陸においては常に例外的な特徴を示す南アフリカのみで、他はランク外ということです。

世界銀行が提供しているデータからサブサハラ地域のいくつかの国のデータを抜き出して、グラフを作成してみます。こちらのデータは港単位ではなく、国単位のデータとなりますので、ご注意下さい。

サブサハラ地域のコンテナ取扱量(TEU単位)

同じアフリカ大陸に位置するエジプトやモロッコ、南アフリカと比べてもそのコンテナ取扱量は1/3から1/6程度であることが分かります。

参考までにエジプト、モロッコ、南アフリカの国単位でのコンテナ取扱量を同データから抜き出したものを以下に示します。エジプト、モロッコ、南アフリカのコンテナ取扱量(TEU単位)

IAPHのデータでもエジプトのポートサイードがトップでしたが、国単位で見るとエジプトのコンテナ取扱量がアフリカ大陸においては圧倒的であることが分かります。

ではアフリカ大陸全体のコンテナ取扱量はどうなっているのか、アフリカ大陸全体、サブサハラ地域、北アフリカ地域のデータをそれぞれ以下に示します。アフリカ地域のコンテナ取扱量(TEU単位)

(※世界銀行のデータより作成 データが記載されていない国もあるので、実際の数値はこれ以上大きい)

北アフリカ地域とサブサハラ地域の合計が均衡しており、共に一桁代後半の伸びを毎年記録しています。アフリカ大陸全体のコンテナ取扱量が約2,800万TEUなので、上海とシンガポールはそれぞれ一港のみでアフリカ大陸全土よりも多いコンテナを取り扱っているということになります。各主要国コンテナ取扱量

各地域における代表的な国のコンテナ取扱量を比較するために以下の図を作成しました。各国コンテナ取扱量(TEU単位)

これらのデータから、アフリカ地域が海運の分野において大きく遅れを取っていることが分かります。後に紹介する書籍においても解説されている通り、近代物流の革命とも言えるのがコンテナ船の発明と開発であり、コンテナ船によって大量の物品を安価で運べるようになりました。

コンテナ船が物流に与える影響

コンテナ船の画期性は、(設備さえ整っていれば)積み降ろしに掛かるコストが圧倒的に低い「規格化された箱」を物流に応用した点にありますが、コンテナ船物流の進化はコンテナ船そのものの巨大化と、巨大なコンテナ船を入港させるための港湾の開発の両軸によって成り立っています。より多くのコンテナを運ぶことができるコンテナ船はコンテナ一つあたりのコストが抑えられるため、大きな価格競争力を持つことになります。そして都市にとっては巨大なコンテナ船の寄港を誘致し、物流のハブとなることが重要になってきます。ドバイのように物流のハブとなることに成功した都市もあれば、港に莫大な予算を投じたにもかかわらず巨大コンテナ船の誘致に失敗し、廃れていった都市もあります。

また港を持つ国がどのような物流インフラを手に入れるかは、それに隣接する内陸国にとっても死活問題であり、東アフリカの場合、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ等の内陸国はタンザニアとケニアの陸路に依存する形になります。東アフリカにはケニアを通る北部回廊とタンザニアを通る中央回廊があるのですが、内乱等で一つの物流ラインが機能不全に陥ったときに自国への物流がストップしないためにも、複数の物流ラインを確保しておく必要があります。また港湾の処理能力や陸路の交通容量は、物流コストの面でも隣接する内陸国に大きな影響を与えます。これに関してはJICAの以下のレポートが詳しいので、ご興味があればご覧下さい。
※参考 ルスモ橋含むタンザニア・ルワンダ国境域における ルスモ橋含むタンザニア・ルワンダ国境域における 物流改善促進協力準備調査報告書

また内陸国が抱える問題については『最底辺の10億人 | ポール・コリアー』において詳述されています。

ところで、現在のコンテナ船で最も大きなものの載積量はなんと20,000TEUです。TEUの大体の大きさは6m×2.5m×2.5mなので、これが2万個も載るというだけでどれだけ巨大であるかが分かると思います。

※参考 世界最大のコンテナ船MOL Triumph竣工 ~世界初20,000TEU超のコンテナ船 アジア-北欧州航路に就航~|商船三井

この記事で焦点を当てているダル・エス・サラームの港に入稿できる最大サイズのコンテナ船は2,500TEUクラスですから、コンテナ船巨大化の潮流に港の開発が追いついていないことが分かります。2020年には200万TEUのコンテナ需要が見込まれているダル・エス・サラームの港周辺は現時点でも混雑しており、港のみならず周囲の陸路の開発も同時に必要とされています。

ダル・エス・サラームの今後の港湾開発計画は?

ダル・エス・サラーム港は受け入れ可能なコンテナ船のサイズが限られている上に、陸路にも大きな問題があることは既に述べました。この問題を解決するために2013年にタンザニアと中国の間で基本合意書が締結され、ダル・エス・サラームの北部に位置するバガモヨにコンテナ処理能力2,000万TEUという巨大な港を100億ドルもの費用をかけて建設する予定が発表されたのですが、2016年に「ダル・エス・サラームとムトワラの拡張に力を入れる」ことを理由に計画の中止が発表されました。
※参考
Govt halts building of Bagamoyo Port – News | The Citizen
Tanzania suspends construction of $10bn Bagamoyo port – The East African

終わりに

ダル・エス・サラームという都市をモバイルインターネットと港湾から見る、というやや無理のある本記事でしたが、モバイルインターネットの先進国にも負けない速度に比べて、物流の根幹である海運における弱さが浮き彫りになったかと思います。インターネットやスマートフォン等の既存のインフラが存在しない比較的新しい分野においては一足飛びの発展が起こり得るのに対して、海運や陸運等の既存のインフラが存在するものに関しては、年々発展しているとは言え、緻密な都市計画と行政側の能力、さらには十分な資金がなければ、成長は鈍化し、その他の都市との競争に勝てなくなってしまう難しさが垣間見えました。

この記事の趣旨はともかく、本記事中で紹介したデータ等が、ダル・エス・サラームという都市を理解するための一助となれば幸甚の至りです。

参考資料

この記事を書くにあたって、以下の二点の書籍を参考にしました。世界都市間競争は現代マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラーの著作で、コンテナ物語はビル・ゲイツ氏が過去に推薦していた書籍です。

その他資料

Press Release: ITU releases 2016 ICT figures …
Global State of Mobile Networks – OpenSignal
Statistics | IAPH
Container port traffic (TEU: 20 foot equivalent units) | Data
サブサハラアフリカにおける広域運輸交通インフラ(港湾/鉄道)に係るプロジェクト研究
ケニア共和国向け「モンバサ港開発事業フェーズ2」円借款契約の調印 | 2014年度 | ニュースリリース | ニュース – JICA
タンザニア報告(寄稿用・オープン)2013年3月.pdf
Container port traffic (TEU: 20 foot equivalent units) | Data

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